行動経済学的販促戦略〜ポイントカード編〜

2015年5月25日ビジネス思考についてブログ

みなさんは行動経済学という学問をご存知でしょうか?

私も販促などについてアドバイスするときに活用しているのですが、近年、ビジネス書などでも目にすることがあるのではないでしょうか?

具体的にどんなものかご紹介したいと思います。

 

行動経済学について

行動経済学ってなに?おいしいの?

行動経済学ってどんなものなのでしょうか?まずは簡単に解説しておきたいと思います。

行動経済学は心理学とも深い関係があります。実際の人間の行動を重視し、性質や行動に基づく消費・投資などの経済活動を解き明かしながら、その結果どうなるかを究明することを目的とした経済学の一分野です。

 

経済学では「人間はつねに合理的な判断をする」ものとして扱われていますが、行動経済学では生身の人間の行動に着目しているため、目先の利益に気を取られて結局損をしてしまうということが往々にして起こるのです。

 

日本で注目を集めだしたのは2002年に米国の認知心理学者ダニエル・カーネマンがノーベル経済学賞を受賞したことがきっかけとなっているようです。

ポイントカードのマジックを行動経済学的視点で見てみよう!

今や量販店のみならず、個人の零細なお店までもが導入しているポイントカードですが、皆さんのお店では導入されているでしょうか?

私自身、消費者としては「最近はどこのお店もポイントカードばかりで財布が膨らんでしまう…」なんて思ってしまいますが、自分のお店に導入している経営者としては実質的な値引きで、ポイントカードを作る費用までかかって…と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか?

 

レンタルビデオ店からガソリンスタンドやコンビニまで多彩なお店で利用できるTポイントカードの存在がポイントカードの普及に拍車をかけた一面もあり、どこのお店でもポイントカードがあって当たり前のような風潮で導入に至ったお店もあるかと思います。

 

その一方でポイントカードの存在を巧みに利用し、販促に活用した業界もあります。それが今回紹介する家電量販店のケースです。

家電量販店で生まれた「ポイント還元VS現金値引き」

最近では少し落ち着いてきたようですが、2010年頃の家電量販業界ではポイント還元と現金値引きを選択できるシステムが良く導入されていました。

たとえば、『ポイント還元20%』か『現金値引き15%』どちらかを選択でき、ポイント還元のほうが目先の値引率が高いという値引きシステムです。

さて皆さんはこのような場合、どちらを選びますか?そして、ポイント還元と現金値引きになぜ5%の差があると思いますか?

 

では、仮に1万円の商品を3回同じお店で購入した場合を考えてみましょう。

①20%ポイント還元を利用した場合

一回目  現金1万円で購入、ポイント2000円分

二回目  現金8000円と一回目ポイント2000円分で購入、ポイント1600円分

三回目  現金8400円と二回目ポイント1600円分で購入、ポイント1680円分

 

ここまでを差し引きすると26400円の支払いとポイント1680円分が残ります。

②15%現金値引きを利用した場合

一回目  現金8500円で購入

二回目  現金8500円で購入

三回目  現金8500円で購入

 

ここまでを差し引きすると25500円の支払いです。

どっちがトクか?

単純に考えれば3万円に対して5%だと1500円の差がでるはずですが、ポイントによる購入分にはポイントがつきません。ここに大きな落とし穴があるのです。

買い物を繰り返す訳ではないので、残ったポイントは無視して、支払額を計算すると、①20%ポイント還元だと支払額26400円で、②15%現金値引きだと支払額25500円となり、現金値引きのほうが支払額は900円安くなっています。

 

しかし、さきほど、多くの方が15%と20%ならポイントでも20%のほうが5%も違うので断然ポイント還元がおトクだと感じたのではないでしょうか?

実際に、店頭でもポイント還元を選んでいた方が大多数だったように思います。

 

実はここに行動経済学が証明する販促ツールとして家電量販店がポイントカードを利用できる理論があるのです。

大差がないのにあるように感じるトリック

現金値引とポイント還元を比べて実際には大差がないにもかかわらず、多くの方がポイント還元を選んでしまう今回のケースは行動経済学の「参照点依存性」と「フレーミング効果」という2つの理論で説明することができます。

参照点依存性で5%の差が大きく感じてしまう

人は損得について一定基準からの変化で判断してしまう性質があります。このことを「参照点依存性」といいます。

たとえば30万円のボーナスが支給されたとしても、この30万円の価値は一意に決まるものではありません。

ボーナスに対して事前に25万円と想定していれば、5万円の利得となりますし、35万円と想定していれば5万円の損失となるのです。

おなじ30万円のボーナスでもこのときの参照点(25万円や35万円)からの変化によって価値が決定されるのです。

 

今回のポイント還元の例では、ポイント還元の「20%」が参照点となり、現金値引きの「15%」と比較してしまうので、『5%もダウンする現金値引きは損だ』と判断してしまいます。

フレーミング効果で印象が大きくかわることもある

たとえば、財布に5000円入っていたとしても、給料日直後なら『5000円しか入っていない』と捉えるでしょうし、給料日直前なら『5000円も残ってる』と捉えるでしょう。このように同じ事象でも捉え方で正反対の印象を持つフレーミング効果は意思決定を大きく偏らせる要因となります。

 

今回の場合、ポイント還元と言うと『何かもらえる』という印象を受けますが、反対に値引きの場合は『支払う金額』に着目してしまうため、この2つを比較すると人は『払う』より『もらう』ことに惹きつけられやすくなると言われています。

行動経済学に基づいた巧みな販促をしている。

かつては経験や感覚だけで行われていた販促戦略ですが、近年ではこのように理論的な面からどのようにすればより効果的に売上をアップできるのかという取り組みが各社でなされています。(このため、多くの企業で似たような値引制度を導入したりもするわけですが…)

行動経済学の理論は販売戦略に大いに活用できる

ほかにも行動経済学の理論には人間の心理的特性には意思決定を偏らせてしまう様々なものがあります。

 

たとえば、カレーフェアを開催するとします。各社のカレーをフルラインナップして100種類並べて選択肢を多く与えたほうが集客率はアップします。しかし、10種類に絞ってそれぞれの特徴をPRするほうが売れ行きは好調となります。

売る側からすれば「選択肢は多いに越したことがない」と思うかもしれませんが、選択肢が多くなるほど決定麻痺がおこり、かえって売れ行きに悪影響を及ぼすのです。

 

逆に、『決定麻痺』の状態だからといって打開策がないわけではありません。このとき価格以外の理由を与えられると購買行動がスムーズに行くことがあります。

 

零細企業ではポイントカードを導入したばかりに効果が上がらないだけでなく、経営を圧迫してしまうケースも見受けられるように、最も注意しなければいけないのは「ライバル企業もやっているから」という安易な理由で闇雲に施策をマネすることです。

ポイントカードに限らず、なぜこのような取り組みをするのか?そして、自らの商売でもその施策が通用し、やる意味があるのかを今一度考える必要があります。

 

そして、行動経済学を少し学ぶだけでも理論的に自らの事業に有利な販売戦略を考えるヒントがたくさんあります。

書籍もたくさんありますし、ネットで検索するだけもいろんな行動理論が紹介されていますので、うまく活用することでビジネスチャンスに繋げることができるのではないでしょうか?